「甘え」の構造

2002-05-29 BKNT 92円(780円) 2008-08-29/09-16 ★3.5 図書館蔵書146.1ア

感想

6年前に古本屋で見かけ、有名な本だと思って、安かったこともあり、買っておいたまま積読していた。一度、何かのきっかけで読んだけど、途中まで読んで放置した記憶がある。

■きっかけ
何の利害関係もないのに「甘えるな」と言われたことに、物凄く違和感を覚えた。これをきっかけに、「甘え」そのものを、もっと具体的に理解したくて、読んでみたくなった。

ネットコミュニティで、書き込みして意見しあうだけのつながりしかなく、何かを授受するとか提供されるあてもないのに、私の意見に反論して「甘えるな」と書かれたことがあった。

「甘え」は、国語辞典『大辞泉』によると「人の好意をあてにする気持ち」とある。ネットコミュニティで書かれた「甘えるな」は、「好意」は抜け落ちて、要は「あてにするな」であると思う。このため「ずうずうしい」とか「おこがましい」ので、それをやめさせるために使っているんだろう。英語版のタイトルは『The Anatomy of Dependence』であり、"dependence"にも「あてにする」という意味があるので正解だろう。また、私自身も、そういう意味合いに受け取ってきたので、してはいけない感情を持つのだと思う。

書き込んでいた相手は、あてにされる立場であるにもかかわらず(もちろんネットコミュニティではあてにしていないし、リアルでの立場と混同している)、あてにされるのが嫌だと表現できないので、「甘えるな」という精神論的な言葉を用いて、してはいけないようにさせてきたのだろう(精神論的な言葉を使われて、反論できない場合、別の言葉に言い換えれないか調べてみると、上手く反論できるのかもしれない)。

■読んでみて
私は言語に関心があり、サピア・ウォーフの文化言語論のアプローチで解説されているので、大変面白く読めた。ただし、後半は、そこから発展した文化論なので、あまり面白いとは感じなかった。

「甘え」とは、マジカルワードで、何にでも説明がついてしまうんではないかと思ってしまった。もしかしたら、「萌え」や「ツンデレ」すら、「甘え」で説明がつくかもしれない。

そのためか知らないけど、自分の性格や行動の8割は「甘え」で説明がつくのではないかと思った。「ホーソン実験」で、労働者の作業能率は、客観的な職場環境よりも、職場における人間関係や目標意識に影響されると仮説されているが、「甘え」というのも人間関係の一種ではないのかと思った。

■知ったこと
日本語に一人称がたくさんあるのは、統合失調(精神分裂)の傾向があるからだというのは言い得て妙だった。個人ではなく集団で行動するから、自分と相手が区別できないという意味では納得してしまう。集団を離れて、単独行動するのは裏切り行為らしい。なるほど、ネットコミュニティで、リアルとネットを混同して、「甘えるな」と書いてきたのも、集団行動化させるためのものだったのかもしれない。

欧米人は「甘え」を理解していないというのは驚きだった。

被害者意識について、甘えられないから被害者のような意識を持つのだという。

■思ったこと
「甘えのイデオロギー」p.62:「日本の社会では幼児と老人に最大の自由と気ままが許されている」とある。しかし、現在では、幼児には「親のしつけがなっていない」といい、老人には「老害」というようになった。

「甘えの言語的起源」p.79:赤ちゃん言葉の「ウマウマ」が訛って「甘え」になったという。これで思い出したんだけど、赤ちゃんが初めに発音するのは、「ま」らしい。日本語では「まんま」で、英語では「ママ」だ。最初に発する音で、日本の母親は、自分を指しているのではなく「おっぱい(ご飯)が欲しい」と理解する。一方で、米英の母親は、真っ先に自分のことを指していると理解したのだろう。いわゆる伝統的な日本人女性の美しさが、ちょっとした言葉の中にも取り込まれている気がした。

「気の概念」p.112:「気はその用法から察するに、瞬間瞬間における精神の動きを指すといえば、恐らく最も正確な定義とはいえないであろうか。」とある。主体的な意味では「一念」となるんだろうか。

「対人恐怖」p.123:「人見知り」が英語にないらしい。調べてみたら"shy"を当てるようだ。

「気がすまない」p.132:仕事をしないと気がすまなくなる強迫神経症

「同性愛的感情」p.134:同性愛的であって同性愛でない感情が、当たり前のように存在していたのは知らなかった。

「被害感」p.154:受身の用法で、英語では「大工によって家が建てられた」といった表現をしないことが説明されている。猪浦道夫『語学で身を立てる』で、西洋言語は「スル的言語」⇔日本語は「ナル的言語」という対立があり、「〜は〜する」⇔「〜によって〜になる」といった対立があるらしく、「甘え」で説明がつきそうと予測していたら、やはり説明されていた。

「自分がない」p.162:「欧米では言語的に一人称の使用が強制され」とあるが誤り。動詞の活用が多様で、人称ごとに違うスペイン語などでは、一人称を省略して話すことも多いと思った。また、広東語ネイティブで英語も使える香港人も、一人称を省略するときがあった(広東語では省略表現が可能)。英語だけで、インド・ヨーロッパ語族の言語を語るのは性急過ぎる。

「父なき社会」p.184:「父」や「エディプス」が論じられているが、「カリスマ」や「ヒーロー」との違いが知りたい。

「子供の世紀」p.201:37年前に書かれている本に、大人が大人になりきれていないと語られているが、いまでも語られているし、ずっと大昔から繰り返し言われているだけである。

「子供の世紀」p.202:毎日新聞のコラムの引用らしいが、「『カッコイイ』という流行語がなまって「カッチョイイ」がはやりだしたが、これは幼児の舌たらずのしゃべり方への傾斜を示している」と分析しているが、言語学的に誤り。発音の楽な方に変化する傾向があるだけ。

要は、「大人」という生き物は、若いころに経験していない、新しく出てきた変化(現象)にたいして、「子どものようだ」と見下す傾向があるだけにすぎない。そういった変化(現象)を認めたがらない「甘え」によるものなのだろう。

■追加 2008-09-18 22:30
Amazon.co.jpによる『続「甘え」の構造』の紹介で、「「日本人の好ましからぬ面をさして“あれは甘えの構造だ”という言い方が一部で行われるように」なり、日本人に見られる特徴的な現象「甘え」そのものに対する批判が起こったのだ」とあった。

この本が巷で誤解され、その流れで、私の中に「甘えてはいけない」という感情が現れるようになったようだ。しかも、いまだに誤解が続いているようだ。はっきり言うけど、「甘えてはいけない」と誤解されてきてことが、俺の性格では「甘え」そのものを想起することすらいけないものと思ってきた。そのため、俺の人格形成を著しく歪めたとしか思えない。なお「ツンデレ」は、完璧にそれで説明がつくことが判った。

この本で「昭和本」の多くは、俺の人格形成や精神構造に大きく影響していることが、よく解った。

■追加 2008-07-08
前述「きっかけ」の項で説明しているが、ネットコミュニティで書かれた内容は、派遣労働者を使っているが、派遣労働者の能力などが乏しくて、使い物にならないといった愚痴であった。私から見れば、派遣労働者を使いこなせていないだけにしか思えなく、議論は平行線を辿って終わった。

私にたいして「甘えるな」と言動するネットコミュニティの彼に、ずっと疑問に思ってたが、次のブログ記事で、すべてが氷解した。

いままでの部下の正社員であれば、「甘えるな」と一喝するだけで、正社員としての自覚を持たせ、その中で切磋琢磨させて、自ら手を下さなくても勝手に仕事が進んでいったのだろう。もしかすると、ネットコミュニティの彼は、部下としてそうやって育ってきたのかもしれない。

ところが、いざ上司となって、これまでのやり方が通じなくないことに気づかずに、ひたすら同じことを繰り返そうとして、上手くいかずにネットで愚痴ってたのではないだろうか。

なお、リーマンショック以後、彼の書き込みを見ることがなくなった。新聞紙上でもいくらか不景気な記事を読んでいるので、書き込んでいた彼の会社は撤退・倒産などを余儀なくされたのかもしれない。

メモ

難しかった漢字

  • 33 瀰漫 びまん
  • 61 輔弼 ほひつ
  • 85 十方豁開 じっぽうかっかい
  • 104 書翰 書簡
  • 174 澎湃 ほうはい
  • 180 膾炙 かいしゃ
  • 182 倦む あぐむ
  • 188 刺戟 刺激
  • 188 播く 蒔く
  • 194 提灯 ちょうちん
  • 200 詛う 呪う
  • 204 頽廃 退廃
目次

はしがき
第一章 「甘え」の着想
第二章 「甘え」の世界

  • 甘えの語彙
  • 義理と人情
  • 他人と遠慮
  • 内と外
  • 同一化と摂取
  • 罪と恥
  • 甘えのイデオロギー

第三章 「甘え」の論理

  • 言語と心理
  • 甘えの言語的起源
  • 甘えの心理的原型
  • 甘えと日本的思惟
  • 甘えと自由
  • 気の概念

第四章 「甘え」の病理

  • 「とらわれ」の心理
  • 対人恐怖
  • 「気がすまない」
  • 同性愛的感情
  • 「くやむ」と「くやしい」
  • 被害感
  • 「自分がない」

第五章 「甘え」と現代社

  • 青年の反抗
  • 現代人の疎外感
  • 父無き社会
  • 連帯感・罪悪感・被害者意識
  • 子供の世紀

文献