人間回復の経済学 岩波新書782
2005-05-28 BKNS 88円(735円) 2007-01-09/2008-09-17 ★4 図書館蔵書341
感想
経済社会論。新自由主義にもとづいた構造改革を批判し、人間的な経済のあり方を提案している。
新自由主義へのアンチテーゼとして、古本屋で見かけたので買っておいた。
著者は、自動車工場の組立工の経験があり、「人間疎外」の現場を経験していることが反映されているように思えるし、同様の経験がある私は共感できる。秋葉原通り魔殺人事件の加害者が、この本を読むことがあれば共感するのではないかと思う。
逆に、そういった経験もなく、新自由主義によって、良い思いをしている人には何も響かないだろうし、いかにそれが間違いであるとことを説くのは、カルト信者の信仰をやめさせるに近いくらい難しいだろう。また、カルト信者と同様に、ネガティブな部分には、絶対に触れようとしないし、認めようとしない。
前半は、叙述的な記述が多くて、理解するのがわずらわしかった。そのために、一度読むのをやめているし、二度目もかなり期間が開いている。
どんな提案があるかと期待して読み進めたが、スウェーデンの紹介だった。イギリスやアメリカの真似をして、次はスウェーデンの真似では、いずれ行きづまると思う。日本には、別のやり方があるのではないかとも思った。
■個人的なまとめ
- 1 経済学では「経済人」を理論的に仮定するが、いつの間にか経済人を規範とするようになってしまった。
- 2 日本の構造改革は、イギリスのサッチャーの政策に似ている。サッチャーは人頭税導入で退陣している
- 3 非人間的な労働を強いるテイラー主義によって、大量生産を実現し、貧困の克服を成し遂げた。けど、ニーズの多様化により、生産性の低下、さらには市場経済のボーダーレス化によって、ケインズ的福祉社会の運営が難しくなり、コストであるとして人間を追放してしまう。
- 4 大量生産・大量消費のケインズ的福祉社会から、知識・情報・IT社会へ
- 5 スウェーデンの教育・再教育・就職システムの紹介
- 6 スウェーデンの事例
- 7 結語
メモ
本書の主張より(帯より)
- 構造改革(新自由主義)路線は誤った路線のゴリ押しである
- サッチャーの失敗を日本でもくりかえすことになる
- いまは、舵のとり方によっては、新しい時代がつくられるが、破局を迎えるかの分かれ道にある
- 産業構造の転換が必要・必然である
- 時間・空間が経済のためにある現状はおかしい。本来それらは人間や自然のためにあるものだ
メモ
- 22 「経済人としてふるまおうとする経営者は、人間をたんなるコストとみなす。それだからこそ、この構造不況のもとで称賛される有能な経営者は、自分の経営する企業からコストのかかる人間を、いかに多く排除したかによって評価される。尊敬される経営者とは、人間としての共感をもたない無慈悲な経営者なのである。」
- 27 「「知恵を出し努力した者」が報われる競争社会をめざす構造改革では、こうした弱者や敗者は、「知恵を出さず努力しなかった者」とみなされる。つまり、神の見えざる手である市場原理の結果は、あるがままにせよと放置されてしまう。」
- 28 (構造改革での激痛が一部に限定されていることについて)「これは明らかに「いじめの論理」である。自分がいじめの対象にならないかぎり、いじめを見て見ぬふりをする。」
- 40 「…イノベーションに果敢にチャレンジした企業が報われたのではなく、容赦なく人員整理した「無慈悲な企業」の勝利だったのである。」
- 63 「人間は、苦楽を一瞬のうちに計算する機械同然の経済人にすぎない。というよりも、企業という巨大な機械の互換可能な商品にすぎない。悪い部品は互換されてとうぜんである。…」
- 67 「…生存するために仕事にはげんでいるのに、仕事のために命を絶つという倒錯現象が生じている。」
- 77 「…テイラー主義では立案と執行が分離されているため、市場の需要に近い現場に企画の決定権がない。市場から遠い企画立案の部門では、市場の多様な需要を的確に把握することはできない。」
- 78 「市場経済がボーダーレス化すると、ケインズ的福祉国家を支える財政が機能しなくなる。というのも、2章で述べたように、市場経済がボーダーレス化すると、資本が一時のうちに国境を越えて動きまわり、財政による所得分配が困難になってしまうからである。」
- 103 知識集約産業・知識社会:
- 日本:情報とともに人とモノが動き回る
- 情報を動かすことにより、人のモノが動きを少なくさせる
- 119 日本の公的機関に対する教育費の対GDP比は、アメリカのを下回っている。
- 123 「…知的能力を高める努力は、他者が強制しても意味が無い。…人間に向上する意欲がなければ、水を飲みたくない馬に水を飲ませようとするような結果になってしまうからである。」
- 165 「社会人の再教育こそが、社会の構成員の教育水準を引き上げる鍵を握る。再教育のサービス供給も、地方政府の任務となる。」
- 170 「ところが、誤った方向に構造改革のハンドルを切っている日本では、人間と自然のたたかいの時間である労働時間が、あまり短縮されない。…」
目次
はじめに
1 経済のための人間か、人間のための経済か
2 「失われた一〇年」の悲劇
- 転換期に生きるということ
- 破局へのハンドル
- 民と財政の関係
- サッチャーからはじまった
- 租税改革でインフレ抑制
- 生産性向上だが産出高低下
- 失業と倒産の増大
- 財政を破壊した
- 人頭税の導入とサッチャーの退場
- 新自由主義の伝播
- Yの悲劇
- 失業率増加
- 年金財政が破綻する
- 人間の労働が機械に従属する
- 貧困の克服からニーズの多様化へ
- 生産性が低下する
- 人間が追放される
- 環境という制約条件
- 協力の必要性
- 国家の誕生
- 財政の誕生
4 エポックから脱出できるのか
5 ワークフェア国家へ
- ノンテイラー主義で組織革新
- 相互協力と自発的創意が引き出される
- 地域開発グループと政府による支援
- 人材育成こそが支援
- 知識資本を蓄積する
- 経済・政治・社会の連関を転換する
- サービス給付を地方政府が担う
- 「学び社会」スウェーデン
- 就学前学校
- 一〇年間の義務教育
- 成人高等学校
- 教育サービスは知識社会のインフラ
6 経済の論理から人間の論理へ
- 構造改革の方向――日本とスウェーデン
- 社会システムが経済システムと融合する
- 学習サークル運動
- 育児サービスのしくみ
- 心のケアサービス
- 地方政府と社会保障基金が担う役割
- 中央政府が担うミニマム保障
- 社会的インフラストラクチュアの整備
7 人間のための未来をつくる
- (書き出し文)
- 人間として生きる時間
- 人間として生きる空間
- 人間の生活の場としての都市再生
- 日本でも都市再生の息吹が
- 生活より人間的にする使命
- 未来に絶望する日本
- 経済学の失敗
- 人間のめざす未来を創造する
参考文献
あとがき