ウェブ社会をどう生きるか 岩波新書 新赤版1074

西垣通. ウェブ社会をどう生きるか. 岩波書店, 2007, 182p., (岩波新書, 新赤版1074).

2008-02-11 図書館007.3 (735円) 2008-02-11/13 ★5(★7)

感想

岡嶋裕史『構造化するウェブ』のまえがきで紹介されたので、梅田望夫『ウェブ進化論』『ウェブ時代をゆく』のアンチテーゼとして読んだ。

タイトルから、ウェブ社会を生き抜く方法として、『ウェブ時代をゆく』のように、働き方とかを想像していたけど、まったく違った。読み終わって、アマゾン・レコメンドに、福岡伸一生物と無生物のあいだ』があるのが、よく理解できた。

情報を1つのものだと考えきたが、生命情報・社会情報・機械情報に分けられるようだ。

「生命」というと、某宗教団体を思い浮かべてしまうのだが、「生命を哲学する」などという某宗教団体よりも、はるかに進んだ「生命」の考察を知った。

タイトルの期待とは、まったく違った内容だったけど、積読してあった本を、芋づる式に、たくさん読みたくなった。こういう意味では、いろんな予備知識がないと、上手く読みこなせない本かもしれない。

「なぜなら、ウェブ礼賛論を説く人々のほとんどは、一流大学を出ていたり、英語が堪能だったりする「エリート」だからです。受験競争を勝ち抜いてきた彼らは、カジュアルな服装をしていても心の底ではエリート意識が強く、「おちこぼれてきた普通の若者」など相手にするつもりもありません。そのにあるのは能力差別主義意識です」(p.169)は、ウェブ礼賛論を鵜呑みにして楽観視しないで、過酷なまでの現実視ができて良かった。たいてい、エリートは不都合なことは隠し、非エリートを食い物にするからだ。

メモ
  • 「しみ込み型」教育と「教え込み型」教育
  • 14 …人間の心は、情報という実体を「入力」されるのではなく、刺激を受けて「変容」するだけなのです。
  • 64 「グーグルが構築したシステムは、ウェブ上で誰が何をしても、すべてグーグルの利益につながるような設計――アーキテクチャーになっている」(森健『グーグル・アマゾン化する社会』光文社新書、2006年、144ページ)
  • 66 「自分の人生が、どれだけデジタルに転写できるのか? デジタルに転写された人生は、イコール自分となるのか?」(佐々木俊尚『グーグル Google』文春新書、2006年、210ページ)
  • 74 過去の発言との論理的整合性も不明瞭…
  • 78 ウェブ2.0集合知仮説においては、従来のアカデミックな権威によって守られた閉鎖的な知は批判されます。
  • #その「知」を表出させるグーグルのアルゴリズムの閉鎖性には批判がないのが不思議
  • 82 …政治的な議論などでは、高評価点のサイトで主張される有力な意見へ一斉の同調が起こり、少数の反対意見は周りからはげしい包囲攻撃を受けやすくなります…(社会学でいう、いわゆる「沈黙の螺旋」現象)が起きるわけです。
  • 87 暑い日、帰宅してメイド・ロボットに「冷蔵庫のなかに水はないかね」と尋ねると、「あります。ナスの細胞のなかにあります」という答えが返ってきてしまいました
  • アスペルガーの症例に似ているなと思ったら、あとから自閉症児の事例が書かれていた。
  • 90 一神教というのは、啓典宗教つまり「聖なる書物」をいただく宗教です。日本の神道をふくめ、民族固有の多くの宗教はいわゆる「場」の宗教で、特定の尊い場所(神社とか山とか滝など)に行くとそこに神が鎮座しているわけです。
  • #ここらへんで、ロゴスとか言語学の本が読みたくなったし、キリスト教そのものの本も読みたくなった
  • 102 分配問題と再割り当て問題とを混同してはいけないのです。
  • 108 一つの可能性は「漢字」でしょう。
  • 118 「生命システム論」
  • 121 自己組織システム(非平衡開放系)
  • 「ベナール対流」、「ベローゾフ・ジャボチンスキー反応」
  • オートポイエーシス性(自己創出性)」
  • 「オートポイエティック・システム」、「アロポイエティック・システム」
  • 142 むろん、正確なデータや知識を知悉していることは大切なのですが、さらに重要なのはそれらを迅速・的確に組み合わせ、まとめあげて、いま焦点となっている問題を解決にみちびく大局的・総合的な能力、といったものです。それが「知恵」とか「叡智」とかいわれる存在であって、立派なリーダーといわれる人々は、すべてそういう知恵を身につけていることは述べるまでもないでしょう。
  • 169 (ウェブ礼賛論の「一緒にエスタブリッシュメントを倒せ」について)
  • しかし、率直に言って、この呼びかけは欺瞞です。
  • なぜなら、ウェブ礼賛論を説く人々のほとんどは、一流大学を出ていたり、英語が堪能だったりする「エリート」だからです。受験競争を勝ち抜いてきた彼らは、カジュアルな服装をしていても心の底ではエリート意識が強く、「おちこぼれてきた普通の若者」など相手にするつもりもありません。そのにあるのは能力差別主義意識です。
  • #俺が薄々感じていたことを代弁してくれた。ペイジやブリンや梅田や小飼や近藤や勝間あたりに食い物にされてきただけというのが良く分かる。
  • ##つか、この著者もエリートだよな…
  • 173 まとめ――真の情報学的転回へ
  • #コンパクトにまとまったまとめがある
目次

まえがき

第一章 そのそも情報は伝わらない

  • ウェブ情報爆発の時代/足をすくう検索技術/ウェブ礼賛論とバカの壁/情報とは「関係する」こと/意味を固定する力/生命情報/社会情報/機械情報/デジタルとアナログ/情報学的転回

第二章 いまウェブで何がおきているか

第三章 英語の情報がグローバルに動く

  • 検索自動化の罠/ふたたび人工知能の夢/普遍論理機械/米国文化の二面性/英語によるグローバリゼーション/多言語ウェブ

第四章 生きる意味を検索できるか

第五章 ウェブ社会で格差をなくすには

  • 暗黙知と「しみ込み型教育」/自閉症児の学び/「場」とIT革命/地域情報化とハイパー多極分散/団塊世代の役割/結局ウェブは何をもたらすのか/まとめ――真の情報学的転回へ