東横インの経営術 女性のセンスを生かして日本一のホテルチェーンを創る

2008-09-30 図書館689.8 (1260円) 2008-10-01/30 ★4

感想

■きっかけ
父がニートの俺に、地元紙の求人欄に掲載している東横インのフロント募集を指して勧めてきた。私でも探すことができる仕事ではなく、父のコネで紹介してもらいたいものだ。

有料の適職診断を受けたことがあるが、結果は「ホテル・旅館接客」は適合度15%であり、「あなたの志向と似ていない職種」のトップであり、不向きである。

また、東横インの支配人が、すべて女性だという噂は聞いていたので、もしかしたら従業員も女性ではないかと思いネットで調べてみたら、「駅前旅館の鉄筋版」を目指していて、やはり女性を採用しているらしい。この本にも書いていたけど、男女雇用機会均等法のしばりがあるので「女性のみ」とは書けないけど、求人欄には女性の顔のイラストつけるなどして、女性だけを募集していることをそれとなく伝えているらしい。

この時点で応募しても無駄なことはわかっていたけど、地元にも進出を遂げているし、「ビジネス」という側面から興味が湧いてきて、幸いにも図書館に蔵書があり借りて読むことにした。けど、ほかに読む本があったことや多忙になってしまったので、読むのを忘れていたけど、先日の事件で逮捕されたのを知って、再び読み出して、読み終えることができた。

■感想
手がけた事業の失敗なども書かれているものも、全体的には東横インのサクセスストーリーだった。この本とうらはらに、逮捕までされている(日記作成時点)のが、何とも滑稽であると同時に、人には光と影がつきものだし、かえって楽しく読めた。

はじめは、生産性のいいホテル(ハードウェア面)を作ることによって儲けていたけど、運営(サービス面)で儲けることにシフトしたようだ。

ピラミッド型組織に対して、オーケストラ型組織という体制を敷いている。各種の委員会を設置して、企業内コミュニティで相互チェックする体制を構築しているようだ。

高校生時代に脱税したり、保育園経営で法律を知らないために赤字続きになったとか、国際・社会事情を知らないまま北朝鮮金剛山観光事業を展開したりと、法律知識や予備知識の不足から失敗しているものがいくつか見られた。

何でも挑戦してみるというのは、腰の重い自分からしたら尊敬に値するし、批判を気にしていては何もできないし、既存の知識や価値観を持っていない方が新しいことを行いやすいのは十分理解している。しかし、遵法精神を忘れたら、今回の逮捕のように、必ずボロが出るのではないかと思った。

高級なホテルと違い、土地面積やビル体積にたいする部屋数や、ホテルの稼働率といったものを追求していて、効率が良くないと経営に差し障るようなシビアな業態だと思う。たしかに、1年に1〜2回しか使われない部分を改造していたのは、あきらかに不法だ。しかし、非効率な部分を残すには、国や団体が補助すべきだとさえ思う。なお、この事件で、東横インというホテルを知ったし、健常者にたいするサービスが落ちるわけでもないし、その後の対応もしっかりしているようだし、実はかなりの宣伝効果があったと思っている。

一方、地下に廃材を捨てていた事件は、明らかに犯罪だと思う。あと、支配人たちのコミュニティは、たくさん設置しているのに、この事件の究明のコミュニティないどころか、調査してなかったようだ。

ただし、著者を肯定的に見ると、「東横イン」という企業・ブランド、具体的には支配人や大家さんを守り抜くために、すべての責任を負ったようにも伺える(本当にワンマン経営だったかもしれないけど)。

「私はやってない」と自己保身に走るトップが多い中、トップの責任の取り方を知るうえで勉強になった。何か不祥事が起きたら、全責任を負って、下の人間に押し付けることなく、むしろ守り抜くのが、トップの責務ではないのかなと思った。

メモ
  • 14:一室あたりのコスト:カプセルホテル約100万円、ビジネスホテル約120万円
  • 20:アダルトビデオサービスがない→健全なホテルイメージ
  • 23:「意気に感ずれば人は動く」
  • 41:支配人に向く人、向かない人:
    • 負けず嫌いな人
    • 熱意のある人
    • 自分のしたことを見つめて、良い悪いを分析して将来に役立てることができる人
    • 会社をよくすることが自分の暮らしをよくすることにつながるという、前向きな愛社精神を持てる人
  • 52:「不向きならすぐ辞めてもらう」というけど、辞めてもらった後も、良好な関係を築いているようだ
  • 56:オーケストラ型経営 ― ピラミッド型経営
  • 67:高校のころに脱税し、退学(転校)させられる
  • 72:保育園を経営したが、「乳幼児○人当たり保育士×人」という法律を知らなかったがために赤字続き
  • 74:北朝鮮金剛山観光事業→「本拠地〔略〕にはさまざまな人間が集まってきた」→思想的背景はないという
  • 100:「持たない経営」ではなく「持てない経営」だった
  • 委員会制度による、支配人コミュニティ
  • 月一回の支配人会議の移動費は会社持ち。年間1億円ほど
  • 168:54歳のときに大学院へ
目次

プロローグ 「素人集団」が日本一のホテルチェーンを創り上げた!

  • 常識を上回る稼働率の秘訣は、女性にあり
  • 支配人には各ホテルの経営を全権移譲
  • 全世界には一〇四五店舗を!
  • ビジネスチャンスはどこにでも転がっている

第1章 女性のマネジメント能力に注目せよ! 〜抑圧されたパワーを推進の原動力に変える方法〜

  • 従業員の九割以上が女性!
  • ひょんなことから“ママさん”に支配人をまかせたところ……
  • コンセプトは「駅前旅館の鉄筋版」
  • 女性にまかせたからこそ、いまがある
  • 女性たちのパワーに注目せよ
  • 女性にチャンスを与え、意気に感じてもらう
  • 女性の特質は、年齢を重ねて磨かれる
  • 子育てを終えたら、社会に出よ!
  • 四〇代女性は人材のニッチ
  • 女性支配人はビジネスパートナー

第2章 一年間で素人女性をプロにする! 〜現場主義と全権委任で人を育てる〜

  • なぜ、素人なのか?
  • 素人だから常識を打ち破れる
  • 支配人は地元採用、転勤もなし
  • 支配人に向く人、向かない人
  • 人材を見抜くポイントは?
  • 研修期間は「サンキュー・ゴメンネ」価格
  • 新米支配人は「ひよこ会議」のメンバーに
  • ホテル運営はすべて支配人の裁量に
  • 「不向きならすぐに辞めてもらう」のは、お互いのため
  • 「さようなら」をいう勇気を持とう
  • ホテル経営に最適なのは「オーケストラ型組織」
  • 風通しが良い「オーケストラ型組織」
  • 《女性支配人ファイル》福島駅西口・橋本順子支配人 専業主婦から一念発起、苦労の末につかんだやりがい

第3章 素人だからわかる、ビジネスホテルの理想型 〜異業種からの参入だったからこそ、現在の成功がある〜

  • 子どもの頃から商売人
  • 父の急死により、弱冠三二歳で会社を引き継ぐことに
  • バブル崩壊で大打撃を受ける
  • 私の「失敗ビジネス」遍歴
  • 「番台商売」として始めたホテル業
  • 電気工事で培った資産価値の見分け方
  • 「四位一体」でローコスト経営を実現
  • “日常型ホテル”に必要なサービスとは何か?
  • 高給? 薄給? 気になる支配人の給与体系
  • なぜ、東横インの宿泊料金は安いのか?
  • “勝手知ったるわが家”を全国展開
  • 独自に築き上げたサービス
  • 《女性支配人ファイル》博多祇園店・平山澄子支配人 気づくといつもやりがいのある仕事を求めていた

第4章 「持たざる経営」で競争時代を勝ち抜く! 〜注目を浴びる「大家さん方式」のすべて〜

  • ホテル業が「副業」から「本業」へ
  • 実は「持てない経営」だった!
  • 「大家さん方式」のメリット
  • ホテルができるまでの物語
  • 契約は三〇年が基本
  • FC方式を採用しない理由
  • 既存ホテルの運営も手がける
  • 信頼関係こそ、ホテル業成功のもと
  • どこに立地するか?
  • 「東京巨大資本の進出」は誤解
  • なぜ“日常型ホテル”にこだわり続けるのか
  • あえて「野暮ったさ」を残す
  • 「三方一両得」が経営の大原則
  • 《女性支配人ファイル》熊本辛島公園・石長真由美支配人 前を歩く先輩支配人と早く肩を並べたい

第5章 「一ミリの工夫」がお客様を呼ぶ 〜驚異の稼働率を実現する独自の「社内制度」の全貌〜

  • 稼働率を決めるのは「立地の良し悪し」ではない
  • 「一ミリでも改善する」ために設立された各種委員会
  • 「パトロール再発防止研究委員会」の効用
  • 自助努力で“自然治癒力”を高める
  • だれもが入会したくない「稼働率向上実行委員会」
  • 「何もしない」と稼働率は決して上がらない
  • 稼働率を上げたければ、リピーターを獲得せよ
  • 新しい取組みも「委員会」が主導
  • ゼロから勉強し「ISO」を取得
  • 「信賞必罰」が不可欠
  • 「今日の一〇〇〇円」は「明日の一万円」に生かされているか?
  • ただの報告会では会議を開く意味がない
  • ライバルホテルを知ることも重要
  • 即断即決、スピードこそ命
  • 失敗は教訓となる
  • なぜ、東横インは株式公開しないのか?
  • 「独善的経営者」にならないために、社外ブレーンを配備
  • 《女性支配人ファイル》博多口駅前・今子眞弓支配人 博多四店舗を仕切る、ベテラン敏腕支配人

第6章 私の価値観を変えた二つの体験 〜「大学院入学」と人生を変えた「内観」〜

  • 社会人大学院に入学
  • 経営者こそ、勉強し続けよ
  • 大学院在学で得た有形無形の財産
  • 人生を一変させた「内観」との出会い
  • 私のいまがあるのは「内観」があったからこそ
  • 「内観」を世界中へ広めるのが、私のもうひとつの目標
  • これからの時代、企業と個人の自己実現は重なるべき
  • インタビュー 日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授/株式会社東横イン取締役・石井脩二氏 西田社長がポロリと漏らした「一〇四五軒計画」「燃える女集団」のパワーで不可能を可能にする

エピローグ 駅前旅館と内観を全世界に!

  • 東横インは勝ち続ける」と確信する根拠となる三つの要素
  • 駅前旅館を全世界に