性的唯幻論序説 文春新書049

1999-08-20 IKNT367.9 809円 2009-05-13/06-04 ★4.5 図書館蔵書

感想

性にかんする社会学精神分析

購入して1年くらいのちに、途中まで読んだ記憶がある。今回、「草食系男子」というキーワードが流行っていて、男女における社会問題を紐解きたくて読んだ。

改訂版が文庫で出版されている isbn:4167540118 。「売る女たち」の章と「文庫版あとがき」が追加されているようだ。

途中までの知識は、私の性にたいする考えに影響を与えていたようだが、未完成だったようだ。もっと早くに読み終えていれば、もうちょっと性にたいして寛容になれたはずで後悔している。

男性は、機能不全に落ちいやすい器官を使って女性を孕ませないといけないから、とにかくフェチでもファンタジーでも妄想でもいいから興奮しないとならない。だから、男はブスでも道具でも「やれる」という考えは、この本の影響だったのかもしれない。

「人間は本能の壊れた動物である」という著者の主張が出発点となり、「性本能も壊れていて、人間は本能によって性交できない」という議論が展開される。

いままで普通に思っていた共同幻想が覆されたこと

  • 処女信仰は明治期以降。キリスト教的価値観が輸入されたため
  • いまから40-50年前の男性は、女性に性欲がないと信じていた
  • 江戸時代の性は開放的だった
  • 乳房はただの授乳器官であり、性的なシンボルになったのはアメリカ文化の影響らしい

科学的根拠は薄いかもしれないし、眉唾に思える部分もあるけど、「見方」とか「視点」として捉えれば、納得いくものが多かった。

リンク

男女の非対称性を知ることができる面白い記事があったのでリンクしておく

メモ
  • 性衝動というのは文化的なものであり生物的なものでないらしい
  • 12 人間と動物の性行動は、形式こそ似ている。しかし、人間のは人為的なつくりもので、動物は本能にもとづいた自然なものである。これを著者は「造花と自然の花に譬えたことがあった。造花だから季節による特定の発情期がなく、いつでも咲いているのである」とたとえた
  • 31 「男の性欲は女性器に中心化されている。男は女性器をその持ち主である女個人の人格と容易に切り離すことができる」
  • 34 「西欧文化のように、尊敬と愛情の対象である聖女と、性欲の対象である売女とに、女をはっきりと二分している文化もある」
  • 69 東電OL殺人事件の被害者女性のことが紹介されている
  • 85 私有財産と美人・ブスは、文化の産物なので「格差」が生じる
  • 105 男のために発明された製品
  • 136 「正常位」と呼ばれるのは、キリスト教の教会の基準に従っているから
  • 181 ヴィクトリア朝時代(性道徳に厳格な時代)のポルノグラフィは、普通のありふれた性行動を描いていたその前世紀のと違って、タブーを犯してロリコン物が多かったらしい。性犯罪も18世紀にはほとんどなく、切り裂きジャックのような強姦したあとに残虐に殺すという凶悪な性犯罪は19世紀にはじまったとのこと
  • 186 (結論で白人が最優秀民族だとするのは)一時代前の西欧の一部の理論家が部分精神病というか部分妄想狂だったのではないかと、著者は思っているようだ
  • 190 「恥とは、ある行為そのものの問題ではなく、人間関係の問題なのである」
  • 194 「インデアンは自然の一部であり、インディアンの親切は自然の恵みの一部であった…」
  • 201 「強姦とは男が何らかの情緒的なかかわりなしに一方的に無断で女の身体を使用することであり、相手の女とのあいだで恥ずかしさを共有するなどの手続きを踏まないと性交する気になれない男にはできないことである」
  • 201 「他方、アメリカには電車のなかなどで女に触るいわゆる痴漢はほとんどないそうであるが、日本には非常に多い。こそこそとわからないように女に触る痴漢行為は、まさに性が恥である男のやりそうなことではないだろうか」
  • 213 「男は一生、女を養うことができる経済力と社会的地位を身につけて「清純な乙女」と結婚するか、お金を払って「売春婦」を買うか、いずれにせよ、たくさんお金を稼いでおかなければセックスできないことになった」
目次

第一章 すべての人間は不能である

  • 性本能も壊れている/欲望と能力のずれ/人類は全員、倒錯者/性差別の起源/男の人生の出発点/女のリビドーも男性的/発生学的過程と逆の性発達過程

第二章 男の性欲は単純明快である

  • 「男根羨望」論の真意/突然、女であることを発見させられる/女の性欲が複雑怪奇なのは/買春、強姦するのは人間の男だけ/男はみんなフェティシスト/幻想に興奮する/女性は道具化、商品化される/男のストリップショウが商売にならないのは

第三章 文句を言い始めた女たち

  • 「する―される」関係/「やらせてもらう」から払う/女に性欲があっては困る/否定できなくて女の性欲を嘲笑する/文化や時代によって異なる性差別/男たちは「いかせた」ことを誇るようになった

第四章 女体は特殊な商品である

  • 女たちの戸惑い/男の性欲を支える幻想のメカニズム/ある種の化粧品に似ている/清純派の反動/それでも売買春するのは/自己表現でもありうる/一種の麻薬のようなもの/「男好きの女」は生きずらい

第五章 「女」は屈辱的な役割である

  • 女が女になる選択/女の性的魅力は文化の産物/女という属性は利用できる/それは罠かもしれない/レズビアンフェミニストの主張/女を侮辱するために強姦する/衝動性という神話/屈辱感をどうする/背後に性差別的共同幻想が/男のために発明された製品

第六章 母親に囚われた男たち

  • クリントン大統領のように/ポルノグラフィの効用/気に入らなければ、代えればいい/不能対策としての性のタブー/愛と性の一致と分離/愛の支配から独立するための男の性交/女を貶めないと不能になる男/「永遠に男性的なるもの」と女は言わない

第七章 「性欲」の発明

  • 恋愛の起源/キリスト教の激しい性嫌悪/神が死んで恋愛が登場した/清らかな恋愛といやらしい性欲/神に代わった誇大妄想的人間/キリスト教の性文化、八つの特徴

第八章 「色の道」が「性欲処理」に

  • 急速に西欧化した近代日本の性文化/女が道端で行水しなくなった/花魁には客を選ぶ権利があった/「観音様」が「公衆便所」に/プラトニック・ラヴ/それで男たちは四苦八苦/輸入されたロマンティック・ラヴ/「家」への反逆としての恋愛結婚

第九章 神の後釜としての恋愛と性欲

  • 資本主義とキリスト教/働くために働く/ヴェーバーが触れなかった性的要因/姿を変えたイヴとマリア/「清純な乙女」が誕生したわけ/ヴィクトリア朝の偽善的性道徳/清純な乙女も売春婦もお金がかかる

第十章 恥の文化と罪の文化

  • 的はずれでもない『菊と刀』/西欧では、罪深いことゆえ性交したがった/日本では、恥ずかしいがゆえに楽しい/恥ずかしさを共有せねば性交できない/女ではなく神を気にする/罪の共有は二人を引き離す/罪である性は「愛」を必要とする/性の「国際文化摩擦」/富国強兵のための性文化改革

第十一章 資本主義時代のみじめな性

  • 生け贄としての愛と性/無料セックスの撲滅/美人を嫁に、は明治以降/新品であることが必要条件/男も女もおたがいに恨む/女は用心深くならざるを得なかった/国家のさもしさの反映/近代神話の打破

第十二章 性交は趣味である

  • フロイドの洞察/性革命がやってきた/アメリカの実験/日本の性解放/女たちは気軽に/若い男のセックスレス化/存在理由を失った男の強い性欲/ゴルフと同じ/自閉的になっている現代人/不能者が増えている/性交強迫/バイアグラについて/性差別の解消へ

あとがき