影響力の武器 ― なぜ、人は動かされるのか

2008-12-24 図書館閉架361.4 (3301円) 2008-12-24/2009-05-26 ★5

感想

ブログで薦められていた書籍で、社会行動における心理からコミュニケーション術を知るべく読むことにした。洋書にありがちな冗長的な記述で長いが、その分、非常に理解しやすい。

第二版(影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか)が発刊されているようだ。図書館には初版しか蔵書してないので、しかたなく初版を読むことにした。ただし、書籍情報を読む限り、新たに事例を増やして分かりやすくしたようで、基本的な概念などは変わっていないようだ。章立てにも変更がない。

コミュニケーション術の本を何冊か読んできたけど、これまでは、仕掛ける側のものだった。本書は、仕掛けられる(被害者)側のものなので、「防衛法」を章立てて解説している。

お返し(返報性)、コミットメントと一貫性、類似した他者の承諾反応(社会的証明)、好意や友愛の感情、権威からの命令、希少性といったことに分けて承諾誘導が説明されている。

ある社会集団を長らく観察しているが、記述されている手法を、すべて利用しているのではないかと思ってしまったくらいに、心理を巧みに利用していると思った。大規模な集団にはそれなりの理由があると思った。

いろいろな手法に騙されないための具体的なことは、この本を読むことをお勧めする。なお、私が考えた対策としては、1.自分自身の感情を冷静に見ることだったり、2.仕掛けてくる相手のゴールが何なのか(たいていは商品を売りつけるか、何らかの集団に帰属させる)を見定めることだと思う。

メモ
  • 17 洋品店では、高い品物から勧める。コントラストの原理を利用して、高いものと比較すると、後から勧めるものはさほど高くないと錯覚する。
  • 45 返報性のルールにもとづいた幸福感:最も幸福感を感じていたのは、受け取った量=援助を与えていた人たち。援助を与えすぎとか、受けすぎている人は、孤独を感じ、満足度も低い傾向にあった。
  • 69 まとめ部分:返報性のルールへの防衛策は、最初の申し出をこと断ることではない。最初の好意や譲歩は誠意を持って受け入れる。あとでトリックだとわかれば、お返しする必要に迫られる気持ちはなくなる。
  • 85 むかしNHKスペシャルで、アメリカ軍が日本兵捕虜にたいして、美味しい食べ物ををあげたり、快適に過ごさせるなどして、口を割らせていて、さすが当時のアメリカは進んでるなと感心した。ところが、この本によると、朝鮮戦争のとき、アメリカ兵が、中国共産党が管理する捕虜収容所に収容されていたとき、「寛容政策」と名づけた教化プログラムによって、口を割ったり、共産党支持者になるなどしたようだ。
  • 103 大学で新入生をいじめる「フラタニティ(地獄週間)」は、原住民族にありがちな「加入儀礼」と同じ構造である。年長メンバーが、体力・精神力・人前での困惑の限界を試すために考案したさまざまな活動を耐え抜いた者だけが、正式なメンバーとして認められる。また、帰属意識が高まる。
  • また、年長メンバーにはサディスティックな性癖があるわけでもなく、進んでボランティア活動するなど、いわゆるリア充なタイプだったという。
  • 107 「何かを得るために大変な困難や苦痛を経験した人は、同じものを最小の努力で得た人に比べて、自分が得たものに対して価値をおくようになる」(エリオット・アロンソン、ジャドソン・ミルズ)
  • 180 自殺が報道されると、自殺はもちろん増加し、さらに自殺以外にも交通事故などが多発するらしい。一方で、格闘技(ボクシング)がテレビ放送されると、アメリカにおける殺人発生率をかなり引き上げる。黒人選手が負けると、その後十日間に若い黒人男性が殺されることが非常に多くなった。逆に、白人選手が負けると、白人男性が殺されることが多くなった。
  • 191 前後を走る自動車2台が、隣の車線に移ろうとウィンカーを出すと、後続の車が前方に障害物があると思い一斉に車線変更しだすので、交通事故が発生しやすくなるという。
  • 202 痴漢(冤罪)で、たいてい被害者の女子高生が勝つことが多いが、「女性犯罪の専門家の一人は、経験豊富な司法専門家でも可愛い顔にしばしばだまされてしまうと述べています」とあるので、日本の裁判官も、しばしば騙されているんだろう。
  • 203 「イケメンなら許す」とか「※ただしイケメンに限る」は本当らしい。顔に傷跡のある犯罪者は再犯率が高く、更正プログラムより顔の整形を施した方が効果があったという。
  • 218-219 「わかったわ。もし、あなたがそうしたいなら、彼をいじめてもかまわないわ。あなたたちにとっては、楽しいことなんでしょうね。でも、そんなことしたって、ジョセフ・ピュリッツァーの中年期のことを勉強する足しにはならないのよ。テストまであと一時間しかないのにね」
  • 241 投影された栄光を浴したいという人たちは、「単なるスポーツ熱愛者ではなく、背後にパーソナリティの脆弱さが隠されている人たちです。つまり、否定的な自己概念をもっている人々なのです。こころの深層に、自分は価値が低い人間だという気持ちがあるため、自分自身の業績を高めて名声を得るのではなく、他者の業績との結びつきを形成し、それを強めることによって名声を得ようとしているのです」
  • 260 「アメリカ保険財務管理局の調査によると、患者医療だけを対象としても、平均的な病院の毎日の誤判断率は十二%にも達しています」#医者は1割くらい誤診していると思っていいようだ。
  • 281 承諾誘導の専門家が自分自身の利益に反して話をしているように見えるときは、まず疑ってかかるべきです。
  • 291 心理的リアクタンス:手に入れる機会が減少するにつれ、私たちは自由を失う。既得権の保持。心理学者ジャック・ブレーム
  • 305 「独占的な情報ほど説得力のある情報である」:ティモシー・ブロックとハワード・フロムキンの「商品理論」の中心部分
  • 323 「キャベツ人形」とあるが、日本では「キャベツ畑人形」という名で販売されていた
目次

まえがき/日本の読者の方々へ/謝辞

第1章 影響力の武器

  • カチッ・サー
  • てっとり早い方法に賭ける
  • 利益を得るのは誰?
  • 柔道
  • 【まとめ】
  • 【設問】

第2章 返報性 ― 昔からある「ギブ・アンド・テーク」だが…

  • 返報性のルールはどのように働くか:返報性のルールの威力/返報性のルールのために、知らぬ間に恩義を感じてしまう/返報性のルールは、不公平な交換を引き起こす
  • 譲り合い
  • 拒否させた後に譲歩する:譲歩のお返し、知覚のコントラスト、そしてウォーターゲート事件の怪/承諾するも地獄、断るも地獄/わたしの血をどうぞ。また必要でしたら、お電話ください/うま味のある、秘密の効果
  • 防衛法:ルールを退ける/敵をいぶり出す
  • 【まとめ】
  • 【設問】

第3章 コミットメントと一貫性 ― 心に住む小鬼

  • 一貫性のテープが回る:一貫性を保つことの便利さ/一貫性にしがみつくことの愚かさ/探す人と隠す人
  • コミットメントが鍵:頭で考えることと心で感じること/行動のもつ魔術的な力/自分で決めたこと/支えとなる脚をつくる/公共の利益のために
  • 防衛法:胃から送られるサイン/心の奥底からのサイン
  • 【まとめ】
  • 【設問】

第4章 社会的証明 ― 真実は私たちに

  • 社会的証明の原理:他者がもたらす力/大洪水の後に
  • 死因は……不明(確なこと):科学的研究/あなた自身が犠牲者にならないために/たくさん人がいても、その中から一人だけ選ぶこと
  • 私のまねをしなさい……サルのように:死に至るサルまね/サルが住む島
  • 防衛法:自動的な行動に気をつける/よく見渡すこと
  • 【まとめ】
  • 【設問】

第5章 好意 ― 優しい泥棒

  • 友だちになるのは、影響を及ぼすため
  • あなたを好きになるのはなぜ? その理由を考えてみよう:外見の魅力/類似性/お世辞/接触と協同/学校へ戻って
  • 条件づけと連合:パブロフの名前はベルを鳴らすか?/ニュース・天気予報からスポーツの世界へ
  • 防衛法
  • 【まとめ】
  • 【設問】

第6章 権威 ― 導かれる服従

  • 権威のもつ影響力の強さ
  • 盲目的な服従のもつ魅力と危険性
  • 内容よりも姿形が重要:肩書き/服装/装飾品
  • 防衛法:本当に権威のある権威/ウラのある誠実さ
  • 【まとめ】
  • 【設問】

第7章 希少性 ― わずかなものについての法則

  • 少ないものがベスト:数少ないものの価値/数量を限定することの効果/時間の制限
  • 心理的リアクタンス:オトナが示すリアクタンス:愛、銃、そして洗剤/検閲
  • 最適の条件:新たに生じる希少性:貴重になったクッキーと市民の争い/希少なものを求める愚かな競争
  • 防衛法
  • 【まとめ】
  • 【設問】

第8章 手っとり早い影響力 ― 自動化された時代の原始的な承諾

  • 原始的な自動性
  • 現代の自動性
  • 近道は神聖なもの
  • 【まとめ】
  • 【設問】

訳者あとがき/文献