女装と日本人 講談社現代新書

三橋順子. 女装と日本人. 講談社, 2008-09-19, 379p., (講談社現代新書, 1960). ISBN 978-4-06-287960-6
2009-10-27 図書館 (945円) 2009-10-27/2010-02-25 ★4.5

感想

明治期に近代国家樹立のために欧米の価値観を輸入したとき、キリスト教の価値観も導入され、女装というものが禁忌視されるようになったのではないかという疑問があったが、その通りだったので驚いた。そもそも、神話レベルで、ヤマトタケルが女装しているので、何かおかしさを感じていた。

日本における女装の歴史が、神話・古代から述べられている。女装そのものが、禁忌視されていたり、せいぜいサブカルチャー扱いで、きちんと体系的な資料がなかったように思えるので、俯瞰する意味でも非常に良かった。その分、講談社現代新書としては厚く、373ページもあった。

メモ

  • 30- 日本の女装の歴史は、国づくりのころからある
  • 52- 中世寺院社会では僧侶は稚児で性欲を処理していた
  • 226 1960年代に大手新聞社の編集者が女装クラブの会員だったことが暴露されて退職させられた
  • 263 「女装子(じょそこ)」は、もともと蔑視した表現だった
  • 267-268 女装する動機・理由の類型(各要素が重なっている)
    • フェティシズム型:女性だけが使用するもの(衣服や化粧)に執着や性的な快感があり、身につける
    • ナルシズム(自己愛)型:自身の女装した姿に愛着・性的興奮を感じる
    • 女装ゲイ型:男性にたいして性的嗜好があり、性的関係を容易にする
    • 性別違和感型:自身の性別に違和感があり限定的であっても実現する
    • 性同一性障害型:自身の性別に強い違和感があり、可能な限り女性になろうとする
    • 女装ゲイ型と性同一性障害型は、性別越境者から見て特殊
  • 275 「女装者の三大趣味は、なぜか、鉄道、軍事、バイクです。」
  • 313 ナンパの相手が女装者だとわかったときに、断ってくる率が述べられているが、ナンパ側からすると、「一貫性」の心理がはたらいているのではないか?
  • 384 著者は、性同一性障害という「病」ではなく、性別越境という個性・特性だと考えている
目次

はじめに
序章 日本人は女装好き?
第1章 古代~中世社会の女装

  • 女装の建国英雄ヤマトタケル―日本神話の女装観/双性の巫人―弥生時代の女装シャーマン/ぢしゃ(持者)―中世社会の女装巫人/女装の稚児/中世の芸能と異性装―稚児と白拍子
第2章 近世社会と女装
  • 歌舞伎の成立―異性装者へのあこがれ/歌舞伎女形の意識と生活―平生を、女にて暮らす/陰間と陰間茶屋―江戸時代のニューハーフ/とりかえ児育と市中の女装者
第3章 近代社会と女装
  • 文明開化と異性装の抑圧/女装と犯罪イメージの結合/異性装の「変態性慾」化/抑圧の中を生きぬく
第4章 戦後社会と女装
  • 女装男娼の世界/ゲイバー世界の成立/女装芸者の活躍/性転換女性とブルーボーイ/ゲイバー世界の分裂/ニューハーフ誕生/アマチュア女装者の登場/新宿女装コミュニティの形成/商業女装クラブの出現
第5章 現代日本の女装世界―新宿の女装コミュニティ
  • 順子の生い立ち―新宿まで/ネオンが似合う「女」になる/新宿女装コミュニティの性別認識/女装コミュニティの人びと―女装客と男性客/女装コミュニティのセクシュアリティ
第6章 日本社会の性別認識
  • 「女をする」ということ/「女扱いされる」ということ/「女」扱いから「女」錯覚へ/「日本人の女ではない」ということ―性別認識と民族認識/性別認識と場/身体を「棚上げ」できない場/「女見立て」のセクシュアリティ
終章 文化としての女装おわりに トランスジェンダーを生きる
参考文献