自己の心理学―人間性の探求 現代教養文庫786

2000ころ BKNT 50円(280円) 2000ころ,2009-10/11,2010-09-05/06 ★3

感想

自分探し。「自己」の探求。1973年発行の昭和本。

かつて途中まで読んだときは、「自己」にたいする新たな発見をした気がして、絶賛していた。文章法を学んでから、文章の読み方が変わってしまったようで、今回、最後まで読んでみて、結論が見当たらなかったり、あってもぼけていたり、「正」と「反」から「合」を導きだすのはともかく、「合」が具体的でないのに気づいて、物足りなさを感じた。

読み物として「自分探し」をするのに、自分を見つけた感じがする意味で良書である。しかし、明確な結論がなく、具体的な行動に結びつけにくい意味では、残念ながら、時間の無駄だったように思える。

メモ
  • 1章:生きがいは、自己実現をどれだけできたかである。自己実現とは、「内的外的な束縛から解放されて、自分の本当の力、その人なりの生き方、その人なりの個性を発揮していくこと」である。自己は、言語化して捉えられない場合もある。
  • 56 「…満足感は結果に大きく左右される。…結果がよかれと願い工夫しない官僚根性は、自己実現から遠い、生命のない惰性です。」結果ではなく過程にある。
  • 3章:認識(自己認識)や記憶には人によって差がある。その認識から感情や欲求が生まれる。役割行動から認識が変わる。つまり、まとめ方が違えば反応が違うし、役割が違えば、まとめ方も変わる。
  • 4章:クローン人間から「自己」を考察。自己とは「絶対的な実存の基礎ではなく、他者、人類、自然、宇宙に開かれた、より根源的な存在のひとつの実践的顕現体、現象にすぎない」のである。#オブジェクト指向におけるインスタンスの1つでしかないようだ。
  • 5章:自己を哲学や心理学から考察。デカルトの「我思う故に我あり」、フロイトのイド・自我・超自我、ユンクの集合無意識から考察している。表現は違うが、「個人的自己を存在の原点とみなす」見方から、人類や宇宙といった大規模な「共同存在性」を共通に提示している。
  • 6章:個々のアリではなく、アリ集団全体に意識がある見方。奴隷の自己は、主人の自己と交錯している見方。封建制しかり。しかし、封建制の主君に仕える自己犠牲は、自己超越ではない。競争社会は他者の犠牲で成り立つ。集団の幸福に個の幸福を優先させるのはおかしい。日本社会では、共同体(ムラ社会など)に融合しながら自己実現していく。西洋的な個我がないし、そもそも心情に合わない。ただし、共同体にある閉鎖的要素をどう克服するかにかかってる
  • 7章:外界の試練にさらされて自己が明確になる。真の自己実現は自己超越である。自己実現は体制にあるのではなく行動にある。対象や関係に生きる。目標設定や、自己超越・共同存在を理想としてもいいが、日常の中に見出せる。自己実現や自己超越は評価できない。
  • 8章:「共同存在意識」をいろんな分野から考察している。
目次

まえがき

第1章 生きがいを求めて

  • 心の叫び/主体性の問題/矛盾と苦悩の意識/自分の中の矛盾/反抗と依存/心をおおうよろい/めくらの心/解放された心/自己実現とは

第2章 自己実現の疎外

  • 現代の疎外/文明の問題/物神崇拝と執着/差別の問題/社会変革なしの自己実現は可能か/意味への問いかけ/合理的理念の限界

第3章 自己に関する心理学

  • 知覚の原理―われわれは世界をどうみているか―/自己の知覚/記憶の問題―記憶は事実を記録しているか―/感情と欲求/役割行動と自己認知/自己に関するまとめ

第4章 自己とは何か―SF小説として―

  • SF小説の概要/第一複製A一の手記/第二複製A二の記録/第一複製の第二の手記/冷凍人間の再生
  • 死後はどうなる/死滅の実感/二人の自分/死滅と不死の両立背反/自己とは精神的私有財産の座である

第5章 自己に関する諸理論

  • 哲学的まえがき/自然科学的自己理論/主体的自己/集合無意識と精神的無意識

第6章 歴史の中の自己

  • 動物の個/人間社会と自己/近代個人主義の問題/集団主義の問題/開かれた集団主義の可能性/現代の主体性回復/日本文化と自己

第7章 個人の自己発達と自己超越

  • 子どもの自己の発達/青年期以後の自己と発達と二つの疎外/自己超越と開かれ/自己超越の体験例/自己実現と自己超越に関する注釈/自由の幻想/自己実現は客観的に評価できない/自己超越も規範ではない

第8章 共同存在意識

  • 共同存在意識/共同知覚と共同思考/体験価値/共同記憶/労働と社会活動/学問と芸術/愛と苦悩/道徳と理想

あとがき