アスペルガー症候群 就労支援編

2012-01-26 図書館 (1365円) 2012-03-18/19

感想

アスペルガー症候群の就職に関するガイドブック。

定型発達者(健常者)にありがちな精神論における「グズ」に、「アスペルガー症候群」という障害の名称をつけただけなのかもしれない。定型発達者は常識にとらわれやすい障害を持っているので、「努力が足りない」「要領が悪い」「まわりが悪い」といった理由づけをして、対象を悪魔化することで思考停止してしまうので、長年放置されてきたにすぎない問題なのである。

第1章の内容を参考に、アスペルガーの特徴を否定形にすると定型発達者の特徴になることに気づいた。一覧すると、

定型発達者は:

  • 作業を規則正しくこなせない
  • 単純作業が苦手
  • 常識にとらわれる
  • 専門知識がない
  • 難しい文章が読めない書けない
  • パソコンを正確に操作できない
  • 部品などの管理や整理ができない
  • 嘘をつく
  • 不真面目
  • 発想に乏しい

という結果になった。定型発達者は、基本的な事務処理ができない上司を想像してしまったし、嘘をつき・不真面目で・発想が乏しい仕事のできない人なのかなと思ってしまう。

一方で、定型発達者が得意とすることを一覧すると:

  • コミュニケーションが得意
  • 良い人間関係を築く
  • 会話時の臨機応変な対応ができる
  • 予定の急な変更ができる
  • 話し相手の嘘を見抜ける
  • ストレスを我慢できる
  • お世辞を言える
  • 周囲を見て職場の慣習を学べる

となった。定型発達者は、しょっちゅう朝令暮改している集団では、能力を発揮できることになる。本書とは関係ないが、集団というものは、その組織内での序列を確かめるために、ほとんどのエネルギーが費やされるという。定型発達者はコミュニケーションを得意とされるが、実はたんに序列の確認作業が得意なだけで、具体的な内容は、嘘をつき、不真面目に仕事をして、発想が乏しいだけで、そういった人ほど組織内で上位につける構造になっていると確認できる。

以上の2つの論点をまとめると、日本型の集団では、実務能力が皆無でも、コミュニケーション能力が優れていれば上位につけ、一方で、部下から、いかに無能な上司と見られやすくなるかが、よく理解できた。

定型発達者は、自分が狭いスコープで世界を認識しているのを知らないばかりか、広いスコープを持っていると勘違いしている。p.49左下囲みに、「発達障害は、みためにはわからない障害です。口で説明しても、企業の採用担当者はなかなか実感できないようです。」と記述されていることからもよくわかる。企業の採用担当者は、たいした人間を知らない蛸壺人間なのに、よく人を選ぶことができると感心してしまう。 また、本書とは関係ないが、定型発達者は、「変わっている人」に遭遇すると上手く対処できないばかりか、集団の秩序を乱す恐ろしい存在なので排除しようとする。定型発達者は、コミュニケーションが得意とされているが、コミュニケーションで解決するのではなくて、排除することによる解決を図ろうとするだけであり、本当の意味でのコミュニケーションが得意と言えるのか疑問である。集団における「くさみ」を一定にしようとするはたらき、集団におけるホメオスタシスとでもいえよう。

本書中に「アスペルガー症候群の人は、指示を聞いたり、人の動作をまねしたりして、仕事を覚えるのが苦手です。必要な作業を視覚化して、それをみて覚えることは、得意です。」とあるけど、生産分野における「見える化」や、ビジネスにおけるプレゼンを見やすくすることなどは、アスペルガー向けなのか疑問である。アスペルガーだからではなくて、視覚化した方が、誰にとっても理解しやすいのではないのだろうか。前述のp.49左下囲みには「…口で説明しても、企業の採用担当者はなかなか実感できないようです」とあり、話を聞くだけで理解できない企業の採用担当者もアスペルガー症候群といえる。

3・4章は、「グズ」の対策として参考になった

  • 書面でコミュニケーション取ってもらう
  • 普通になるのではなく、問題のある行動を減らすことと、関係者にも理解してもらう
  • 余暇を、自由気ままに遊ぶのではなく、ある程度、予定を立てるようにする
  • 生活リズムを保つために、用事を作ったり、役割をもって、規則的に外出する。一方で、過活動しない
メモ

三つの特性

  • コミュニケーション:言葉や身振り手振りで、意思の疎通をはかることが苦手⇔嘘をつかない
  • 社会性:ほかの人にあわせて行動するのが苦手。共感性に乏しい⇔ユニークな発想ができる
  • 想像力:ルールや好きなことだけにこだわる。考え方を変えるのが苦手⇔生真面目に働く

適職・不適

  • 適職:IT系、調理関係、工業系(部品管理など)、研究職、清掃業、翻訳業、芸術系。アメリカ:図書館司書や資料管理
  • 不適:営業職、接客業、重機などの操作、危険物の取り扱い

相談先

目次

1 就職してがんばっている人の声

  • ケース例 パソコン操作の知識をいかして働くAさん
  • ケース例 ホテルの調理場で評価されているBさん
  • ケース例 IT企業の総務人事部で戦力になっているCさん
  • ケース例 流通業界で長所を発揮しているDさん・Eさん
  • 発達障害と仕事 三つの特性は、どのように影響するか
  • 発達障害と仕事 みてわからない障害だから、誤解される
  • 仕事の選び方 事例からみえてくる、適職と難しい仕事
  • 仕事の選び方 なにより大切なのはジョブ・マッチング
  • Column 当事者の自伝から、働き方を学ぶ

2 アスペルガー症候群の人の就職活動

  • 相談する まず、支援機関に希望や悩みを伝える
  • 相談する 必要に応じて、診察や適性検査を受ける
  • 支援を受ける 定期的に面談を受け、自己理解を深める
  • 支援の例 働く力を見極めるスキルシート
  • 支援を受ける グループワークでほかの相談者と交流
  • 支援を受ける パソコン操作や軽作業の練習をする
  • 支援の例 実務を体験するジョブトレーニン
  • 支援を受ける 履歴書の書き方や面接時の話し方を確認
  • 支援の例 自己記入シートで、職業適性を認識する
  • 就職活動 支援者やジョブコーチと連携して活動する
  • 就職活動 三ヵ月のトライアル雇用を利用する
  • 就職活動 転職や再就職の場合も、することは同じ
  • Column 相談相手との相性が、すべてに影響してくる

3 専門的な支援がはじまっている

  • 支援を受ける チャートでわかる!自分にぴったりの相談先
  • 支援を受ける 自分にあった手帳を取得する
  • 支援機関 発達障害者支援センター
  • 支援機関 地域障害者職業センター
  • 支援機関 地域若者サポートステーション
  • 支援機関 ハローワーク
  • 支援機関 役所の福祉課(障害福祉課)/医療機関など
  • Column 支援を受けるために必要な費用は?

4 就職してから、受けられる支援

  • 支援を受ける 就職後も、支援機関のフォローを受ける
  • 支援を受ける ジョブコーチに仕事の悩みを相談する
  • 自分でできること 人間関係のトラブルは、小さいうちに防ぐ
  • 自分でできること 仕事に必要なことはルールとして覚える
  • 自己管理の例 Aさん・Cさんの眠気対策アイデア
  • 自分でできること 日誌で同僚のコミュニケーションをとる
  • 自分でできること うつにならないよう、こまめに相談する
  • Column ジョブコーチ養成研修が開かれている

5 ライフスキルも少しずつ身につける