記憶力を強くする 最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 ブルーバックスB-1315

2008-09-30 図書館141.3キ (1029円) 2008-10-01/10 ★4

感想

本屋で気になって買おうとしたけど、ケータイから図書館の蔵書を確認したので、買わずに済んだ。著者には申し訳ないです。

記憶術をマスターしたいのがきっかけで、「記憶」について興味を持つようになった。かつては、記憶術の本として、友寄英哲『数字と文章 3秒間記憶術』(エスカルゴ・ブックス)、『「3秒集中」記憶術』(カッパ・ブックス)、志賀一雅『奇跡のスーパー記憶法』(ノンブック)を読んでいるようだ。その後、Quarkスペシャル『賢い脳の作り方』や『元気な脳と心を作る』を読んでいて、大雑把だけど、脳や記憶のしくみは理解していると思う。

前半の記憶のしくみでは、最新の脳の情報が得られて、非常に勉強になった。中途半端に理解していた「Quarkスペシャル」を読み返したら、よりよく理解できそうだった。一方で、後半の記憶術では、これまで言われていたことの繰り返しが多く、思ったほど参考にはならなかった(逆に、まったく記憶(術)に関する本を読んだことがない人には、うってつけの本といえる)。ただし、前半の説明の裏づけにより、記憶としては残りやすいと思う。

メモ
  • 記憶が高まる脳波はα波ではなくθ波。α波はリラックスしたときに出る脳波
  • 67-:「ほうれんそう」を「ほう《れそん》う」と表記されていても、「ほうれんそう」と理解するプライミング記憶というのがあるけど、速読術はこの記憶の応用なのではないかと思った
  • 96:「…同じ電流とはいっても、神経回路と電気回路では、流れる電気の実体は異なります。電気回路では流れるものは「電子」ですが、神経回路では「イオン」なのです。」#もっとも感動した箇所
  • 139:記憶の3箇条
    • 1. 何度も失敗を繰り返して覚えるべし
    • 2. きちんと手順を踏んで覚えるべし
    • 3. まずは大きく捉えるべし
  • 185:光る脳:クラゲの蛍光分子の遺伝子をネズミに組み込んだ
  • 187
    • 物覚えが悪くなった→努力不足
    • 物忘れが酷い→もともと覚えてない
  • 208:科学的にもっとも能率的な復習スケジュール:
    • 学習
    • 1週間後に1回目の復習
    • 2週間後(学習から3週間後)に2回目の復習
    • 1か月後(学習から1か月3週間後)に3回目の復習
  • 249:「…記憶力がよくなれば、その分、勉学や仕事に割く時間が少なくて済みます。そうなれば、余った時間を利用して、友達と遊んだり、自分の趣味に打ち込んだり、家族サービスをしたりと、人の心にまでゆとりがうまれてくるのです。つまり、記憶力の増強薬は、人類に彩りのある生活と豊かな人間性をプレゼントしてくれる「夢の薬」なのです」
  • #私はそう思わない。まず、著者は脳(海馬)の専門家であり、社会学の専門家ではない。たしかに、科学技術の発展の理想とするところは、やらなくてはならないことに割く時間が短縮され、自分のしたい時間が増加されることにある。しかし、科学技術の発展でいえば、たとえば交通輸送の発達によって、短時間で遠い目的地に行けるようになった。それまで一泊二日ののんびりだった営業活動が、日帰りになっただけで、翌日には別の仕事をしなくてはならない。けっきょくは、以前と変わらない時間で密度の濃い仕事をさせられるだけである。社会全体の厚生は上昇するかもしれないが、個々人の負担は以前と変わらない。オリンピックの100メートル競走にたとえれば、ドーピングで7秒台が出るようになったけど、ライバル選手もみなドーピングしているので、観戦者からすると7秒台というハイレベルな競走を見ることができても、各選手にとっては容易に金メダルが望めないことには何ら変わりない。
  • 記憶力の増強は、カルシウムイオンの受容体と関係があるらしい。一方で(古い知識なので現在の解釈は変わっているかもしれないが)、カルシウムイオンは、うつ病との関係もささやかれているから、記憶力増強剤が作られたとして、服用しても、うつ病にもかかりやすくなる副作用があったりするんじゃないかと思ったり。
目次

第1章 脳科学から見た記憶

  • タクシー運転手の記憶力 / 神経細胞が想像する脳 / 人に個性があるわけ / 神経細胞を守るためには / タクシー運転手の脳は膨らむ!? / 鍛えた分だけ記憶力がつく / 豊かな環境と豊かな記憶 / モリスの水迷路試験 / 常識と科学

第2章 記憶の司令塔「海馬」

  • 記憶の不思議 / 記憶の司令塔「海馬」 / 進化の歴史が認めた記憶の料理人 / 時計回りの金太郎飴? / リストラか過労死か / なぜか七個しか覚えられない / 思い出せないのに記憶? / 勘違いも記憶!? / 記憶は歴史の階層 / 海馬は何を記憶するのか!? / 記憶の倉庫 / 「運命」を刻む海馬 / 海馬は地図!? / 子供には海馬がない!?

第3章 脳とコンピューターはどちらが優秀なのか?

第4章 「可塑性」―脳が記憶できるわけ

  • 「青」進め!「赤」止まれ! / 失敗は成功のもと / 脳はいい加減なヤツ / 道を究めて達人になる / 脳が記憶するとき / 人間が人間である理由 / 路線図か時刻表か / ある哲学者の記憶 / ヘブの法則 / 夢かまことか

第5章 脳のメモリー素子「LTP」

  • LTPの発見が世界を変えた / 耳をそばだてるLTP / LTPこそが脳の記憶なのか? / SFの世界が現実になった日 / 鏡の世界のLTP / 情動が作る思い出 / 夢の続き

第6章 科学的に記憶力を鍛えよう

  • 覚えられないのか、それとも覚えないのか / 無駄な勉強法 / 記憶のビタミン / 心の余裕は記憶に毒? / 記憶力を増強してストレス解消!? / なぜ東大に合格できるのか? / 勉強はほどほどに!? / 寝る児は育つ――「夢」の不思議 / 平均的人間はダメ人間!? / 天才の秘密 / 記憶することは人の運命

第7章 記憶力を増強する魔法の薬

  • 記憶力のドーピング / 賢いネズミの誕生 / 肝臓と記憶の不思議な関係 / 記憶力とは何か? / 記憶力が失われる恐ろしい病気「アルツハイマー病」 / 楽しく酒を飲みましょう

第8章 脳科学の未来

  • 豊かな将来 / 他人の脳をもらう / 科学が「心」を理解する / なぜ海馬なのか

おわりに / 参考文献